20年ほど行きつけの時計屋
誰とでも仲良くできる陽気な兄ちゃん
20年経ったからおっちゃん
お調子者にも見えるんだけど、
見る人が見れば「ただモノではない、、、」感じが潜んでいる
店では九分九厘お調子者認定かな
どうも~~
と、いつでも笑顔でお出迎え
オヌマは週1~のペースでコーヒーを飲みに行っていましたとさ
時計もね、
一流どころの正規品を弩級プライスで販売
業界からは煙たがられていたとか
お調子者キャラだけど、
客を食いものにしない感じが浸透していて、
要は信頼度が高い
いつもハットとアロハシャツで店に出ていて、
おしゃれと言うよりはシャレオツ
店と違い私服は派手なんすよ~
なんて言っていたから、
そうでしょうね、と言うと、
いや、ほんと派手なんス
と、10年以上経ってカミングアウトされた姿は
背中まであるロング?な金髪モヒ
歴30年以上だとか
服装も髪型に伴うものだった
猫かぶってる姿がハットにアロハって、、、
そして何十人のバイクチームの代表
四輪派のオヌマもたまに会に参加したけど、
まぁ、海千山千の集まり
一筋縄で行かなそうな人間しか入れない感じ
お子様の教育にも熱心でね
スカートの短い高校生の娘さんに
「見られて恥かしくないイケてるパンツ履けよ」
と、注意したり
娘さんの彼氏にも
挨拶次第では教育的指導を入れるとの事
ある年末に電話をかけた
どうも~~
どうしました?
俺が呼んじゃったのかな?
なんすかそれ?
実はステージ4の膵臓癌になっちゃって
もう駄目なやつじゃないですか?
そうそう
切れば1年、切らねば半年
とりあえず切って来るからしばらく休むって連絡しようかと思って
そうなんすね
とりあえず年明けに顔出します
年明け、沖縄の島ウコンを持参して店に行くと
どうも~~
と、いつも通り
俺のがんとも(癌友)がさぁ、、、
と、悲壮感ゼロ
死ぬ自覚あります?
眠れない夜とかないんですか?
あるわっ!
と、談笑
奥様はと言うと、
「死なさないから!!」
と、闘志を燃やしていたとか
奥様の店主評
「彼をコピーして配る事が出来れば、
この世から不幸な女は居なくなる」
そんな奥様、
主婦友とのランチ会で昼からワインを嗜んで帰宅
そのタイミングで
忘れものを取りに帰った店主
ドアを開けると中から
「死んじゃいやーっ」
と、泣く声が聞こえたらしい
そっと扉を閉めて店に戻ったとか
その話の時は
可哀そうな事しちゃってるよなぁ、、
と、きつそうな顔してた
夏
明確に再発&転移
来年にはあっちの住人か
そんな思いで店に行くと、
どうも~~
いつも通りニヤける店主の手には貴重な一本が
私物の激レアコレクション
売っちゃうんですか?
そうそう、終活しないと♡
それ狙ってたんだよなぁ、、、
もし可能なら買ってくれない?
館長が持ってくれるなら一番ありがたい
長い付き合いで初めてされた売り込み
意を決して応えました
金に困って売っても枕元に立ちません?
立たない立たない
俺のは死ぬ死ぬ詐欺だから♡
コロナで東京五輪が一年延期
見たかったなぁ、チクショー
なんて悔しがっていたけど、
奇跡は起きるもので、五輪も見れた
店も継続
いつも通り店でコーヒーを飲みながら
この時計を買った時の計算ではもう死んでるんですけどねぇ
俺の計算でもとっくに死んでるわ (笑)
と、喜び語り合う
ま、
終わりは来るもので、
と言っても、何だかんだ4年頑張ってくれた
病床で「さて、」と言って逝ったとか
結局、
家族や友人の誰も
弱音や泣き言を聞かずじまい
誰もが知る超有名企業の社長さんが常連で
病気を知っている数少ないお客
これから検査とかで臨時休業とか増やさなきゃならないし、
告知しといた方が良いかなぁ
と、軽く漏らしたところ
「誰が病気の主人から時計買うのよ
お先に夏休み頂きま~す
って気楽な自営業装えばいいんだよ」
と、言ったんだとか
これで一気にモヤが晴れたと感謝してた
それを没後に社長に伝えたところ
「実は以前大きなトラブルが有って、
あの人が裏で動いてくれて助かったんです
あの時助けて貰わなければ今の私は無いんですよ」
この話を奥様にしたところ、
「皆さまにお世話になった話は聞いていましたが
人を助けた等の話は聞いた事がありませんでした」
お世話になった話をし、
世話をした話はしない
らしいなぁ
短い余生
自ら家の補修をしたり
家電を買い替えたり
自身の死後に奥様がバタバタしない様にリストを作って色々やってた
「 人生は面白い
最良の選択をしろ
お金の心配はしなくて大丈夫
お母さんに渡してある 」
受験を控える娘さんに没後用のメッセージを作成
楽しそうにやってた
葬式はやらない。散骨してくれと言ってある
急遽店が閉まったらそこが今生の別れと思っといて
分かりました
海に向かって手をパンパンしときます
十分十分♡
とはいえ、
皆に愛されていた店主の最期
奥さんの計らいでお別れ会が催された
葬儀場にはお経の替わりにパンクが流れていた
海千山千たちがガンガン泣いてた
ヤ●ザの事務所の前を通っても感じない異様さを醸し出しているおっさんたち
それがガンガン泣く、泣く、鳴く
娘たちはどう思ったろうか
純粋に「お父さん凄い」の図に見えたと思う
娘たちもガンガン泣いていた
心底泣いているって感じ
しばらくして奥様から連絡
店主は複数の時計を残したとか
「 私は一本で十分です
お邪魔じゃなければお側に置いてあげてくれませんか 」
彼から時計を買う事が出来ないでモヤモヤしてた時
せめて、と、
「 〇〇時計店で購入しました 」
的な中古品でも見つかればと検索してた
よくぞ白羽の矢を立ててくれた!と、
値段交渉するも撃沈
ロハでした
その上で、
心残りがひとつ
店主は至極の一本を持っていた
偲ぶ会で奥様にお会いした時
雑談がてらに聞いてみた
ソレの行き先を
「 私が持っています 」
なるほど
一本とはアレのことだったか
受け継ぐのは俺しかいないと思っていたけど、
さすがに勝ち目無し
あざっした